【DevLOVE】「ディシプリンド・アジャイル・デリバリー 〜アジャイル開発の現実解〜」に参加してきました
もはやおはようございます。アオヤマです。
そうなんですよ。昨夜は DevLOVE という開発者の集いの1イベント「ディシプリンド・アジャイル・デリバリー 〜アジャイル開発の現実解〜」に参加して来ました。
Amazon.co.jp: ディシプリンド・アジャイル・デリバリー エンタープライズ・アジャイル実践ガイド (Object Oriented SELECTION): Scott W. Ambler, Mark Lines, 藤井 智弘, 熱海 英樹, 天野 武彦, 江木 典之, 岡 大勝, 大澤 浩二, 中佐藤 麻記子, 永田 渉, 西山 泰男, 三宅 和之, 和田 洋: 本
イベントでは、6/22に翻訳版が出たばかりの「ディシプリンド・アジャイル・デリバリー」を通して、エンタープライズにおけるアジャイル開発のあり方についてレクチャーが行われました。
この記事ではそのイベントの様子や「DAD(ダッド※)本」の内容について簡単に紹介してみたいと思います。
※ … 「ディシプリンド・アジャイル・デリバリー」の略称。「ダッド」という読み方は会場3分前に決まったとのことです。
熱気に包まれた会場(室温的な意味で)
会場は国内でも有数の金融系システムインテグレータである TIS株式会社 の東京本社でした。今回の題材に相応しい場所と言えるのかもしれません。
また、イベントへの参加人数も58人と そこそこの規模の参加人数です。
平日の夜にも関わらず熱気に包まれる会場。ほどなく空調が効き一気に冷え込む会場。 エンタープライズ案件担当者や、小規模の受託開発に関わる者、リーンスタートアップの実践者など、参加された動機や参加者自身の背景も様々なのが印象的でした。 IBM以外には初展開 と言われている、アジャイルに続く新しい開発プロセスへの関心の高さが伺えます(不意に客観的視点)。
広義のエンタープライズ、そしてエンタープライズ・アジャイル
タイトルにもあるように、DADは エンタープライズにおけるアジャイル開発についてまとめられた知恵の集合 です。
で、ここでいう『 エンタープライズ 』とは何か? 実はレクチャーの間は明言されていなかったのですが、一般的に連想される大規模法人向けの基幹システム、業務システムのことではありません。
- 既存システムとの依存関係が切れないシステム
- アジャイルを実践していない(できない)プロジェクトとも連携せざるを得ないシステム
つまり、結果として大規模のシステムが陥ってしまう構成ではありますが、規模そのものとは関係がないのです。
また、今の世代においては、従来エンタープライズに不可欠とも言える 成果物駆動 は既にオーバースペックになっています。テクノロジーが進化し、UIが汎用化され、ライブラリやツール・プラクティス・プロセスが豊富になった現在の開発環境では、成果物にも プロジェクトの特性に合わせて必要な物だけ用意する Just In Time(JIT)方式 が適用可能です。そして、JIT方式が適用されたプロジェクトは開発効率が飛躍的に伸びます(開発時もその後の改修時も大幅に保守の手間が減るので、当たり前のことなんですけど…)。
更に誤解して頂きたくないポイントとして、エンタープライズ・アジャイルはこれまで相反するものとされてきたエンタープライズとアジャイルを単純に糊付けしたものではありません。 従来のエンタープライズに必要とされている要素(既存システム、規約、標準化 etc…)はそのままに、コアにJIT方式が適用されたもの こそがエンタープライズ・アジャイルなのです。
現実的戦略の集合体としてのDAD
エンタープライズに限らず、システム開発の過程では様々な課題が発生します。
DADはシステム開発において 「ヤバい」→「ヤバいけど とりあえず作ろう」 ではなく、 「ヤバい」→「ヤバさを極力軽減させる」 試みを行います。その試みの中には 理想的なアジャイル開発 と それをそのまま受け入れることが出来ないエンタープライズの現場 とのギャップという、大きなリスクになりうる要素の解消も含まれています。
DADに息づくプラクティスは 7つのプロセス に基づき、 60もの細かいケース が描かれています(※)。 また、備えられている戦略として 37の戦略比較表 が用意されています。
それらの戦略の一つ一つは出自の時代もプロセスもバラバラで、翻訳に特に苦労した箇所だったそうです。その分網羅性が高く、 戦略比較表だけでも書籍代並の価値がある とのこと。正に現実的戦略の集合体、 道具箱 としてのDADの価値がここにあるといえるでしょう。
※ … 著者のスコットが根っからの「世話好き」であることの現れとも言われているようです。
開発プロセスにおける百科事典としてのDAD本
今回レクチャーを担当された翻訳者の岡 大勝さんは どこの現場にもDAD本を持ち歩き、それぞれのチームにおける様々な問題に対し、「それはここのページにあるこういった手法が有効である」といった形ですぐに引き出せるくらいに記憶されているということでした。
これは岡さん個人の経験や記憶力の良さだけではなく、それだけDAD本が あらゆる課題に回答できるほど網羅されていることの証 でもあります。それはさながら 開発プロセスの百科事典 です。
しかしその反面、高い網羅性は DAD本を一見難解な内容に見せてしまう 原因の一つになっているようにも感じます。実践的経験者でなければ読み解けないほど マニアックなレベルとも言えるほどのプロセスの集合 。 スーパーヒーロー大戦 状態です。集中力を維持しなければ誰が誰と戦っているのか分からなくなります。
私はスクラムを多少経験した程度のアジャイル初心者ですが、今回のレクチャーを通して多少なりともDADの意義は理解できたつもりです。それでもDADの本はまだまだ難解に感じられます。手法の一つ一つは分かりやすくても、選択肢が豊富なために全てを理解するのに時間と経験が必要になってしまうのです。
ここで「DAD本はそういうものなんだ」と割り切ってしまうのもいいんですが、『プロセスの百科事典』という見方が正しいのであれば、 百科事典らしい、より整理された構成であればもっと利用しやすくなる ような気もします。…どうなんでしょう? 私も十分に理解できていないこともあり感覚で見ているところがありますので、若輩者がとんちんかんなことを言っているのであればスルーして下さい…。
勉強します
レクチャーの後も、アジャイルプロセスを通した課題を話し合うグループダイアログや、翻訳者の岡 大勝さんに加え 監修の藤井 智弘さんもゲストに迎えた質疑応答など、大変充実した構成でした。
- 「『打出の小槌』や『言い訳』としてアジャイルを使用しない」
- 「お客さんにとって関係無い以上、敢えてアジャイルと明言する必要はない」
- 「アジャイルとは『持ってるお金を上手く使う手法(バーゲンセールのノウハウ)』である」
- 「顧客を説得するのではなく、顧客を啓蒙し、自発的にし、こちらが巻き込まれる形にするのが理想である」
- 「『日本流の(中庸な)アジャイル』は実行不可能」「本来のアジャイルに従って極端な方向に振ってみて、チャレンジしてみて、難しいようならすぐに引いてしまえばいい」
などなど、 全てを飲み込むのも難しいほどの膨大なお話を拝聴する機会に恵まれました。
私もこのイベントをきっかけにして アジャイル実践者 として普段の経験を抜かりなく続け、DADへの理解を深めて行きたいと思います。ありがとうございました!
参考書籍の目次
ここの目次タブをクリックしてご確認ください。(膨大すぎて整理できなかった)
(2013/07/17 14:45 追記)レクチャーに使用されたスライドが公開されました