はばばばば

長くなりそうなことや取っておきたいことを記録します

NHK総合・特集ドラマ『途中下車』を観た

クリスマスの夜にNHK総合で放送された特集ドラマ『途中下車』を観た。

放送予定に気付くのが遅れたが「北村一輝がパニック症に陥るドラマなら観ないわけにはいかない」という謎の使命感によって、出先にも関わらず放送開始直後にリモート録画をしてなんとか観られた。(12/27現在、再放送の目処が立っていないそうなので見逃すと危ないところだった)

当ドラマは、元・日経トレンディ編集長の北村森による同名の自伝小説が元になっている。小説自体は読んでいなかったが、北村さんといえばジャーナリスト・編集者として度々拝見する著名な方。病気の事や小説の事はドラマを観るまで知らなかったので少し驚いた。

主人公夫婦が抱える心の問題

主人公の灰島(演:北村一輝)は日本各地を飛び回る多忙の編集者。次期編集長候補という状況にありながら思わぬタイミングでパニック症に掛かり、仕事がままならなくなり退職を決意する。

f:id:Mint0A0yama:20141227185210j:plain

他人に迷惑を掛けまいと、また体裁を保とうとする灰島。パニック症を職場の上司にも報告できず、退職の際も独立を匂わせている始末。 更には症状の根本的な原因を突き止めようとせず、家庭内に居場所が無いと、次の仕事を探そうとする。

また、妻の紗江(演:原田知世)も、夫には「お金のことは気にしないで、治療に専念して」といいながら、収入を維持しようとアルバイトのシフトを増やし、体を壊す。

f:id:Mint0A0yama:20141227185311j:plain

客観的に見ればどうしようもない人たちに思えるけど、よくよく自分自身に照らし合わせると共感できるところは多い。 誰もが「自分はまともだ」「自分はもっと出来るはずだ」と思い込んで無理をしてしまうわけで、そこで生まれるすれ違いを自然に描いている。脚本は、声優として幕之内一歩役も(!)演じられている喜安浩平によるもの。この方、『桐島、部活やめるってよ』も手掛けられていてなかなか非凡な印象。

また、演出の面では笠浦友愛による心象描写の他、心のゆらぎと平穏という二つの面を尺八の音の揺れで表現している作曲家のかみむら周平の手腕も大きい。総じて、簡潔かつ丁寧にまとめられた優れたドラマだと思う。

誰にでもある『心のスイッチ』

本編で強調して描かれていたことの一つとして、パニック症の引き金になった『スイッチ』がある。灰島は仕事中、ここぞという時にペンの蓋を口に加える。

f:id:Mint0A0yama:20141227185507j:plain

いわゆる集中モード*1を自ら創りだそうとした結果の癖だが、これが自分でも意図せずにパニックを作り出す原因になっていたというわけだ。 バリバリと仕事をこなす人は誰しも覚えがあるこういった『依存』が、症状改善の手がかりとして描かれているのは貴重だと思う。

他人事ではない精神疾患

通勤ラッシュや自己犠牲的な働き方など、今の日本の都会でまともでいられる人間なんてほとんど居ない。パニック症に限らず、いかなる年齢でも、無理をしていればどこかでガタが来てしまう。

そして、一度こじらせてしまうと症状がなかなか改善せず、原因から目を背けてしまうと悪化の一途である。 灰島も、電車に乗れないどころか果てはスーパーマーケットの行列待ちもできなくなる。

f:id:Mint0A0yama:20141227185706j:plain

73分という短い放送時間の中で、克服への挑戦と発症の様子が何度も何度も描かれており、その困難さがわかりやすく表現されている。 また、こじらせてしまうまでには周囲の人を含め全ての人間が平等に当事者であるということが童話『裸の王様』を通して語られている。

f:id:Mint0A0yama:20141227185801j:plain

精神疾患を根本的に改善するには運動や食事の習慣の見直しと瞑想にかかっているわけだけど、このドラマで描かれているのは『自分に素直になり、身近な人と和解すること』。本当の自分を理解し、他社との相互理解を深めることで、社会において自分がどうあるべきか、本当はどうしたいのかを突き詰める。

これという正解がないのが大変なんだけど、諦めずに向き合っていかなきゃならないもんなんですよね。このドラマを通じて『未だ気付いていない人たち』に、少しでも届くことを願う。


原作本も後でチェックしよう。

追記(2014-12-27 20:06)

NHKオンデマンドで見逃し配信が用意されていた。使ったことがないから存在を忘れてしまうが、困ったときにはありがたい。

*1:『ブースト』『ゾーンに入る』などと様々な言い方がある